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分担研究概要
半導体化学センサを用いたイオン分布のイメージング
吉信 達夫
医工学研究科 医工学専攻 計測・診断医工学講座
バイオセンシング医工学研究分野 教授
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1. はじめに
試料中の化学物質の可視化には蛍光等の標識が用いられることが多いが,アプリケーションによっては標識の毒性が問題となることがある.本研究では標識フリーな測定方法のひとつとして,半導体デバイスを用いた化学センサによるイオンイメージングの手法を開発している.
半導体デバイスを用いた化学センサは,小型化や集積化に有利であり,また微細加工技術を用いてさまざまな表面構造を作製することができるという利点がある.半導体化学センサとしては,電界効果構造(Electrolyte-Insulator-Semiconductor; EIS構造とも呼ばれる)を用いたイオン感応性電界効果トランジスタ(Ion-Sensitive Field Effect Transistor; ISFET)[1,2]が最もよく知られており,携帯型のpHメータなどとして実用化されている.EIS構造を有する半導体化学センサにはこのほか,EIS容量センサ[3]やLight-Addressable Potentiometric Sensor(LAPS)[4]などがある.これらのセンサの模式図を図1に示す.
図1. Structures of (a) ISFET, (b) EIS capacitive sensor and (c) LAPS.
EIS構造を有する化学センサにおいては,センサ面と接する溶液中のイオン濃度に応じて半導体中に生じる電荷分布の変化を検出する.すなわちISFETにおいては,チャネルのコンダクタンスの変化,EIS容量センサやLAPSにおいては,半導体-絶縁層界面の空乏層容量の変化を検出する.LAPSは光電流を用いて空乏層容量の変化を検出するため,走査光を用いることによって位置分解された測定を行うことが可能である.
2. 半導体化学イメージセンサ
2.1 測定原理
半導体化学イメージセンサ[5,6]はLAPSの測定原理を応用したものである(図2).センサ面上におけるイオン濃度の空間分布を反映して,空乏層厚の空間分布が生じる.変調された集光レーザビームを照射すると,照射位置における局所的な空乏層容量に依存した振幅を持つ交流光電流が発生する.したがって,集光レーザビームでセンサをスキャンすることによって得られる電流像はイオン濃度のマップとなる.
半導体化学イメージセンサの空間分解能はレーザビームのスポット径,半導体層の厚さ,少数キャリア拡散長などのパラメータで決まる.5ミクロンのパターンは既に解像されており,アモルファスSiを用いれば1ミクロン程度の分解能も達成できるものと期待される.
図2. Principle of the chemical imaging sensor. The photocurrent is dependent on the width of the depletion layer, which is distributed in response to the spatial distribution of the ion concentration on the sensing surface.
2.2 応用例
化学イメージセンサの応用分野としては,電気化学反応の可視化や,生体試料の観察などが考えられる.
図3は,電解質溶液中に設置された平行平板電極間で電気分解を行った後,イオンの拡散によってpH分布が変化する様子を可視化した例である.化学イメージセンサによって,反応や拡散を直接観察したり,定量的な解析を行うことが可能になる.
図3. Observation of the pH distribution between two electrodes.
図4は,寒天培地上で培養された大腸菌コロニー周辺のpHが代謝に伴って変化する様子を可視化した例である.化学イメージセンサを用いることによって,生体の活動を視覚的・定量的に測定することが可能である.
図4. Observation of an E. coli colony cultured on agar.
3. 今後の研究の展望
化学イメージセンサの応用範囲を広げるためには、測定の高速化や大型試料への対応が必要である。
図5は複数光源からなるリニアアレイの一方向スキャンで画像測定を行うことができる「化学イメージスキャナ」システムのプロトタイプである。
図5. Prototype of the chemical image scanner system, which scans a large-area sensor (4 in. in diameter) in 6.4 seconds.
周波数多重化の手法によって、センサ面内の16点で同時測定を行うことにより、一画面を取得するのに要する時間を約6.4秒に短縮した。センサの大きさは直径4インチである。今後さらに光源の数を増やすことにより、より高解像度の画像を高速測定できるシステムを開発する予定である。
このほか、バイオセンシングへの応用や、微小流体デバイスへの応用について研究を行っている。
文 献
[1] Bergveld P. Development of an ion-sensitive solid-state device for neurophysical measurements. IEEE Trans Biomed Eng BME-17, 70, 1970.
[2] Matsuo T. Wise KD. An integrated field-effect electrode for biopotential recording. IEEE Trans Biomed Eng BME-21, 485-487, 1974.
[3] Schoning MJ, Poghossian A, Yoshinobu T, Luth H. Semiconductor-based field-effect structures for chemical sensing. SPIE Proc. 4205, 188-198, 2001.
[4] Hafeman DG, Wallace Parce J, McConnel HM, Light-addressable potentiometric sensor for biochemical systems. Science 240, 1182-1185, 1988.
[5] Nakao M, Yoshinobu T and Iwasaki H. Scanning-laser-beam semiconductor pH-imaging sensor. Sensors and Actuators B 20, 119-123, 1994.
[6] Yoshinobu T, Iwasaki H, Ui Y, Furuichi K, Ermolenko Yu, Mourzina Yu, Wagner T, Nather N, Schoning MJ. The light-addressable potentiometric sensor for multi-ion sensing and imaging. Methods 37, 94-102, 2005.