HOME > 分担研究概要 > ナノまたはマイクロ粒子による集束超音波治療効果の強調

分担研究概要

ナノまたはマイクロ粒子による集束超音波治療効果の強調

梅村 晋一郎
医工学研究科 医工学専攻 治療医工学講座
波動応用ナノ医工学研究分野 教授
E-mail:

Website

要旨

  超音波の生体作用はマイクロバブルにより桁違いに増強され得る。生体組織の超音波吸収がマイクロバブルの導入により増強されることを理論的に予測し、動物実験によって実証した。マイクロバブルを治療標的組織に選択的に送達することができれば、この効果は超音波治療において有用性が大きいと考えられる。

1. はじめに

  超音波は、途中の生体組織を伝播したのちに、非表在性の治療目的組織に到達し、それを振動させ、加熱するエネルギーを集束してするのに適切な吸収係数や減衰係数を、ほどほどの波長においてもっている。これは、レーザービームなどの電磁波にはない、非表在性腫瘍の非侵襲的治療に適した特長である。このような治療に原理的に役立つ可能性のある超音波の生体作用を図1に示した。

図1. Bioeffects of ultrasound and their enhancement with microbubbles.

  マイクロバブルが存在すると、その近傍では振動振幅が桁違いに大きくなるので、機械的作用も加熱作用もともに加速される。さらに、マイクロバブルが圧壊するとき、音響化学作用が発生する。

  近年、加熱作用は、強力集束超音波(HIFU)による加熱凝固治療法として、臨床的に用いられるようになった。ここでは、マイクロバブルによる生体作用強調の例として、生体組織の超音波加熱のマイクロバブル製剤投与による加速をとりあげる。

  マイクロバブル1個によって吸収される超音波パワーを数値計算し、図2に、気泡体積あたりの値を気泡半径に対し、超音波強度をパラメタとしプロットした。この結果から、生体組織1mm3あたり10個程度 のマイクロバブルが存在すれば、生体組織の超音波吸収が倍増すると予測される。

図2. Ultrasonic abosorption by microbubble at 3 MHz, theoretically predicted by numerically solving the Rayleigh-Plesset equation. Ultrasonic intensity is varied as a parameter from 1 mW/cm2 to 1 W/cm2 in a geometric series.

2. 実験方法

  動物実験は、周波数3MHz、焦点距離30mmのHIFU トランスデューサを用いて行った。図3は、その集束音場のシュリーレン像である。麻酔したラットの腹腔より腎臓を引き出し、脱気した生理的食塩水中にてHIFUを照射した。非常に細い熱電対を腎臓の超音波焦点位置に刺入した。安定化マイクロバブル製剤Optizon® 0.2 ml/kgを頚静脈より投与した。これば、通常の臨床的投与量より1桁近く多いが、安全投与範囲内である。超音波単独では加熱凝固が起きないようHIFUとしては低い超音波強度を用いた。

図3. Focal ultrasonic field at 3 MHz.

図4. Experimental setup of HIFU exposure.

3. 実験結果

  図5には、HIFU照射による腎組織の温度上昇を Optison あり、なしの場合について示した。

図5. Tissue temperature elevation with HIFU.

  臨床的にも使用し得る範囲の投与量のマイクロバブル製剤により、同じ超音波条件において、4〜5倍の温度上昇を得ることができた。

4. 結論と展望

  マイクロバブルが超音波加熱を倍増させることを実証した。しかしながら、マイクロバブルが全身にわったて同じような濃度で分布していたのでは、伝播途中の組織における超音波減衰が同時に増えてしまい、得られた増感効果がほとんど打ち消されてしまう恐れがある。この増感効果を充分に生かすには、マイクロバブルの濃度を図6に示すように目的組織において選択的に上げる工夫が必要である。

図6. Selective delivery of microbubbles.

  相転移型のナノ粒子はこの要求に応えられる可能性がある。EPR 効果により腫瘍組織に集積しやすい半径100nm程度の液滴は、超音波照射の刺激により、MHz域の超音波を効率よく吸収する半径1μm程度の気泡に相変化させることができる[2]。

謝 辞

  共同研究者である日立製作所中央研究所の佐々木一昭氏および川畑健一氏には、特に、実験において多大な協力を頂いた。ここに感謝の意を表する。

文 献

[1] Umemura S, Kawabata K, and Sasaki K. Acceleration of ultrasonic tissue heating by microbubble agent. IEEE Trans. Ultrasonics, Ferroelectrics, and Frequency Control 52, 1690-1698, 2005.
[2] Kawabata K, Sugita N, Yoshikawa H, Azuma T, and Umemura S. Nanoparticles with Multiple Perfluorocarbons for Controllable Ultrasonically Induced Phase Shifting. Jpn. J. Appl. Phys., 44(6B), 4448-4852, 2005.

▲ このページのトップへ戻る