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分担研究概要
Dual MDCTの4次元データーによる血管壁の組成と力学的負荷の解析:Multi-detector row CTによる右副腎静脈の描出、解剖学的形態の検討
高橋 昭喜*,高瀬 圭,松浦 智徳
医学系研究科 医科学専攻 病態制御学講座 量子診断学分野 教授
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1. はじめに
CT、MRIによる高分解能の3次元画像と心電同期を組み合わせた精細な4次元データーにより我々は多数例の血管疾患を診療、解析してきたが、本年から80kv、140kvの直交する2X線源が同時使用可能な新しいMDCTが臨床使用可能となり、血管壁病変組成の組織学的な認識も同時に可能となった。
本稿では,従来の1X線源のMDCTによる血管解析の一例として,副腎静脈の同定法に関する研究を紹介する.
2. Multi-detector row CTによる右副腎静脈の描出、解剖学的形態の検討
2.1 はじめに
原発性アルドステロン症はアルドステロンの過剰分泌により引き起こされるが、過剰分泌の局在診断には副腎静脈サンプリングが必要不可欠である。サンプリングに際しては、MDCT(multi-detector row computed tomography: 多列検出器コンピュータ断層撮影法)を行うことで、右副腎静脈の解剖学的形態に関する有用な情報を得ることが出来る。そこで、MDCTを用いた右副腎静脈の描出能を検討し、さらに描出された副腎静脈について三次元的な解剖学的形態を詳細に検討した。
2.2 対象と方法
造影MDCTを施行した104症例を対象に検討を行った。8列MDCTを用い、0.5秒/1回転、ビームコリメーション幅1mm、テーブル移動距離14mm/秒の条件で、300mgI/mlの造影剤100mlを3.5ml/秒の速度で注入後、撮像した。1mm厚、0.5mm間隔でCT画像再構成を行った。右副腎静脈の描出の程度、右副腎静脈と副肝静脈やその他の静脈との共通幹の有無、下大静脈に合流する場合については、右副腎静脈開口部の位置(椎体を基準とした頭尾方向の位置、椎体右縁からの水平方向の距離、右腎静脈開口部下端からの頭尾方向の距離、下大静脈壁での位置)、下大静脈分岐部からの右副腎静脈の向き(横断面上での向き、垂直断面上での向き)、長さや太さといった解剖学的形態について検討した。
2.3 結果
右副腎静脈は104例中79例(76%)で同定可能であり (図1)、右副腎静脈と副肝静脈が共通幹を形成する症例が79例中6例、右副腎静脈が下大静脈に直接合流するが副肝静脈もほとんど同じ位置に合流していた症例が7あった。下大静脈に直接合流する73例で以下の結果が得られた。開口部の頭尾方向の位置は第11胸椎から第1腰椎の高さにあり、とくに第12胸椎中1/3から第1腰椎上1/3の高さが69%と多かった (図2)。椎体右縁からの水平方向の距離は平均9.3mmであった。右腎静脈開口部下端からの距離は平均48mm頭側であった。右副腎静脈は97%で下大静脈右背側壁に、残り3%で下大静脈左背側壁に合流していた。右副腎静脈の下大静脈分岐部からの向きは、横断面では右背側方向が77%、左背側方向が23%であり、垂直平面上では尾側方向が89%、頭側方向が11%であった (図3)。右副腎静脈の長さは、1.2〜8.6mmで、平均3.8mm、下大静脈合流部での径は1.0〜6.0mmで、平均1.7mmであった。
3. コメントと結論
これまで右副腎静脈の描出に関する断片的な報告はあるが系統的に分析したものはない.本検討では,多くの症例でMDCTでの右副腎静脈の同定が可能であり、かつ三次元的な解剖学的形態評価が可能であることが示唆された。本研究の結果から,MDCTで術前に右副腎静脈の解剖的情報を得ておくことは、副腎腫瘍の治療前にしばしば必要とされる副腎静脈サンプリングの成功率を高め、さらにより安全かつ迅速・正確に行う点において有用性があると期待される。
Fig.1. A 56-year-old man with an aortic dissection. A para-axial multiplanar reconstruction (MPR) image shows excellent visualization of the right adrenal vein (RAV, arrow) running through the intervening adipose tissue to join the right posterior quadrant of the inferior vena cava. The length of the RAV was 8 mm.
Fig. 2. The craniocaudal level of the right adrenal vein (RAV) orifice in relation to the vertebrae.
4. 展望
ごく最近80kv、140kvの直交する2X線源が同時使用可能な新しいMDCTが臨床使用可能となり、血管壁病変組成の組織学的な認識も同時に可能となった。今後は,4次元画像データーによる血管壁への力学的負荷の計測と血管壁組成の情報を同時解析することにより、血管病変の進行、治療後再発のメカニズムを探り、増加の一途をたどる血管疾患の早期診断、治療へむけてのより鋭敏な非侵襲的診断法、低侵襲血管内治療法の確立を目指していきたい。
Fig. 3. The craniocaudal angle of the right adrenal vein with z-axis in the vertical plane. IVC = inferior nena cava.
文 献
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