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分担研究概要

電気化学バイオニックデバイスの開発

西澤 松彦
工学研究科 バイオロボティクス専攻 バイオマイクロマシン工学講座
バイオマイクロマシン工学分野 教授
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1. はじめに

  生体分子と材料表面が接する「バイオインターフェース」の構造と機能を分子レベルで理解し制御することは,先進医療デバイスの開発における重要課題のひとつである.特に,生体情報や生体エネルギーを電気変換する「バイオセンサ」および「バイオ電池」の開発の鍵は,生体(イオン系)/デバイス(電子系)を仲立ちする機能界面の研究に集約される.

  当グループでは,生体分子や細胞の自己組織化を誘発・誘導する独自の界面技術を創出し,各種バイオニックデバイスの性能向上や低侵襲化に取り組んできた.特に,固液界面の電荷移動を扱う「電気化学」の学理と技術を基盤としており,具体的には,以下のテーマが進行中である.
  (1)酵素を電極触媒とするバイオ電池の開発
  (2)オンデマンド固定型バイオチップ
  (3)細胞ネットワークチップ
  (4)電解重合膜による神経インターフェース

2. バイオニック電池の開発

  一種のユビキタス発電システムとして,酵素を電極触媒とする燃料電池への期待が高まっている.酵素の反応選択性によってセパレータが不要となり,燃料溶液を精製する必要も無いため,シンプルで「小型化に有利」な発電システムである.また,燃料溶液や電池の構成材料が生体由来であるため,極めて「安全」な電源とも言える.これらのメリットが最も活きる領域のひとつは医療であり,特に体液から発電する埋め込み電源であろう.埋め込み型の医療デバイスが各種開発されている最中だが,その何れにおいても電力供給がデバイスの設計を左右する重要な課題となっている.

  我々は,血糖(グルコース)から発電する燃料電池の開発を進めている.ジアフォラーゼ(Dp)とグルコースデヒドロゲナーゼ(GDH)の2種類の酵素を積層被覆した炭素電極でグルコースを酸化し(マイナス極),ビリルビンオキシダーゼ(BOD)を被覆した炭素電極で酸素を還元する(プラス極).たとえば血清から,ボタン電池程度の出力が得られる.

図1. Schematic illustration showing structure of the enzyme-based Biological Fuel Cell.

3. オンデマンド固定型バイオチップ

  ポストゲノム研究を支えるプロテインチップや細胞チップに期待が集まっている.

  我々が開発した「電気化学バイオリソグラフィー」は,生理環境下で多種類のタンパク質や細胞を逐次配列・固定できるin-situマルチパターニング技術である.ヘパリンなどで不活性化した基板表面の局所を,微小電極で産生した次亜臭素酸で瞬時に活性化することで,任意の領域にタンパク質や細胞を接着出来る.本法は,容易に流路型デバイスに搭載できる.その場合,流路の天井に電極を配し,電圧を加えることで対応する床面にバイオパターンが形成される(下図).

図2. The newly developed surface technique “Electrochemical Biolithography” can immobilize proteins
and living cells, even in the pre-assembled microchannel, and even during cell cultivation.

4. 細胞ネットワークチップ

  細胞を配列させて培養するための既存の方法は,すべてがレディーメイド方式であって,1種類の細胞にしか適用できない.それに対して我々の電気化学リソグラフィーは,細胞培養の最中に行え,細胞が予め培養された表面にも適用できるので,複数種類の細胞を隣接して配置できるものである.マルチ細胞によるマイクロパターンが精度良く得られれば,細胞間のコミュニケーション解析が可能となり,細胞を用いるバイオアッセイの意義を拡充できると考えている.

5. 神経インターフェース

  目や耳など生体センサの機能不全を補完する埋め込み電子デバイスの開発が盛んであるが,生体システムと電気デバイスの間で効率的に情報伝達を行うためには,デバイスと細胞との接合界面が分子レベルで制御されねばならない.たとえば,人工網膜チップでは閾値以上の電荷を高頻度で注入する必要があり,刺激電極を微小化するためには,電極界面の容量増大が必須となる.

  我々は,電解生成する導電性高分子(ポリピロールやポリチオフェン誘導体など)による高容量電極を作製して,低侵襲の細胞刺激を実現している.また,電析膜を絶縁性の基板表面に沿って優先的に成長させるための表面処理法を見出し,重合時に配線化する新規リソグラフィー技術へと発展させている.これによって,神経系細胞のマイクロパターンに「後から配線する」技術が出現しようとしている.

図3. A sheet of cardiac myocyte was noninvasively stimulated by a PPy-coated electrode.
The lateral growth of PPy was induced to make electrical contact with living cells.

文 献

[1] バイオニック燃料電池:
Electrochem. Commun., 2005, 7, 643; Electrochim. Acta, 2007, 52, 4669; 日本機械学会誌2005,932; 化学と工業2006,768.
[2] 電気化学バイオリソグラフィー:
Langmuir 20, 16, 2004. J. Am. Chem. Soc., 126, 15026, 2004.
Langmuir 21, 6966, 2005. Anal Chem 78, 5469, 2006.
[3] 細胞ネットワークアッセイ:
Langmuir 18, 3645, 2002. Biomaterials 24, 4239, 2003.
Lab Chip 3, 313, 2003. JSME Int J Ser C 47, 956, 2004.
Langmuir 22, 10784, 2006.
[4] 導電性高分子による神経インターフェース:
Electrochim Acta 44, 3629, 1999. Biomaterials 28, 1480, 2007. Langmuir, 2007(in press).

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