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分担研究概要

計測連成シミュレーションによる血流の局所微細構造の解明

早瀬 敏幸
流体科学研究所 流体融合研究センター プロジェクト研究部
超実時間医療工学研究分野 教授
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1. はじめに

  生体内の複雑な血流を理解することは、循環器系疾患の高度治療法の開発のために重要である。著者らの研究グループは、数値シミュレーション、実験計測、およびそれらの融合手法によって複雑な血流の局所微細構造の解明に関する研究を行っている。

2. 計測連成血流シミュレーション

  循環器系疾患の正確な診断のために、血流の詳細情報を得ることは本質的に重要である。種々の医療画像診断装置の間で、比較的コンパクトな装置で非観血的に血流のリアルタイム・イメージが得られることから、超音波カラードプラ診断装置が広く使われている。しかし、この装置では超音波ビームに沿う速度成分だけが得られ、三次元血流速度場を理解することは困難である。

  一方、近年、血流の数値シミュレーションが幅広く研究されている。X線CTやMRIで得られた実形状の血管内の複雑な血流が数値解析により得られている。しかし、シミュレーションには、血管形状や、流入流出境界条件、初期条件等に依存するという本質的な問題があり、通常、血流の計算結果は、類似であるが、必ずしも実際のものと同一ではない。

図1 流れのオブザーバーによる数値実現

  これらの問題を解決するため、我々は流れのオブザーバー(1)(図1)に基づく、超音波計測と数値シミュレーションの融合手法を提案した。オブザーバーの既存の理論は複雑な流体問題へ直接適用できないので、フィードバック則の設計と評価は、単純化された2次元問題(2)あるいは三次元定常問題での数値実験を通してなされた。

  超音波計測融合(UMI)シミュレーションの例を図2に示す。経食道超音波プローブにより、血管壁の形状と血流速度分布が計測される。流れのオブザーバーを構成するために、我々は最初に血管壁の形状をBモード超音波画像またはCTデータから抽出し、等間隔の直角計算格子上で計算領域を定めた。基礎式として、ナビエ・ストークス式と連続の式を使用する。離散化方程式は有限体積法によって得られ、反復解法の一種であるSIMPLER法によって解かれる。上流境界条件は、時間依存の一様平行流、下流境界条件は自由流出である。流量の時間変動は、カラードプラ信号強度から推定する。フィードバック信号は、以下の手順で適用される。シミュレーションの各々の時間ステップで、ドプラ速度に関する測定結果と計算結果の差異を各モニタリング点で計算し、その差異に比例したフィードバック信号を、ナビエ・ストークス式と圧力方程式の生成項に導入することにより、計算結果を実現象に漸近させる。

図2超音波計測融合シミュレーションシステム

図3 動脈瘤近傍の速度誤差ベクトル
左・(a)通常のシミュレーション 右・(b)UMIシミュレーション

  実際の血管は複雑な三次元形状を持つので、三次元UMIシミュレーションは実際の応用にとって不可欠である。定常流の場合の数値実験結果を図3(2)に示す。図は、大動脈瘤近傍の血管内において、実際の血流のモデルである基準解からの誤差速度ベクトルを、通常のシミュレーション(図3(a))とUMIシミュレーション(図3(b))の間で比較したものである。UMIシミュレーションの速度誤差は動脈瘤内でかなり小さくなっているのがわかる。

  計測連成シミュレーションの基本的な特性を理解するために、発達乱流の計測連成シミュレーションの収束性に関する数値実験など、基本的な流体問題に関する基礎的研究も行っている。

  将来の研究展望として、我々は超音波計測とスーパーコンピューターによる構造・流体連成解析を融合したシステムの開発を行っている(図4)。また、MRIまたはX線等、超音波計測以外の計測法への本手法の応用についても検討を進める予定である。

3. 微小循環の細胞流れ

  微小循環のモデリングの基礎的研究として、著者らが開発した傾斜遠心顕微鏡を用いて、コーティング材料又は培養内皮細胞で覆われているガラス板上の血球の摩擦特性を解明する研究を行っている。また炎症部位から生じる化学誘引物質によって、炎症部位に集中される白血球の挙動を解明するため、肺毛細血管通過時の好中球の変形と通過特性に関して、数値的および実験的研究を行っている(3)。

(a)超音波計測システム

(b)スーパーコンピュータシステム(未来流体情報創造センター)

図4 超音波計測連成シミュレーションシステム

4. 結論

  著者らの研究グループは、数値シミュレーション、実験計測、およびそれらの融合手法によって複雑な血流を解析するための研究を行っている。融合手法により循環器系疾患の高度診断・治療法の開発のために不可欠な血流の局所微細構造の解明が可能になるものと期待される。

参考文献

[1] Hayase T and Hayashi S. State Estimator of Flow as an Integrated Computational Method with the Feedback of Online Experimental Measurement, Journal of Fluids Engineering. Transactions of ASME 119, 814-822, 1997.
[2] Fumamoto K, Hayase T, Shirai A, Saijo Y, and Yambe T. Fundamental Study of Ultrasonic-Measurement-Integrated Simulation of Real Blood Flow in the Aorta, Annals of Biomedical Engineering 33, 413-426, 2005.
[3] Shirai A, Fujita R, and Hayase T. Simulation Model for Flow of Neutrophils in Pulmonary Capillary Network, Technology and Health Care 13-4, 301-311, 2005

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