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分担研究概要

ナノテクノロジーによる難聴治療に関する研究
1. 脳幹インプラントのプレサイスロケーション
2. ナノ粒子を用いた内耳へのドラッグデリバリー

川瀬 哲明*,織田 潔,山内 大輔,日高 浩史,香取 幸夫,小林 俊光
医工学研究科 医工学専攻 生体再生医工学講座
聴覚再建医工学研究分野 教授
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1. はじめに

  感音難聴は、代表的な耳疾患のひとつであるにもかかわらず、その病態には不明な点も多く、また病態に基づく診断法、治療法が十分に確立されてはいない。本研究では、1.脳幹インプラントの成績向上を目的とした、multi-channel surface microelectrodeを用いた蝸牛神経核同定、2.内耳性難聴における蝸牛組織へのドラッグデリバリーの分子レベルでの検討を目的とし、ナノ技術の内耳疾患の診断、治療への応用を試みる。

2. 脳幹インプラントのプレサイスロケーション

  近年、神経線維腫症2型をはじめとする人工内耳無効例に対して脳幹インプラント埋め込み例の報告が増加しているが、成績は人工内耳に比べると劣っているのが現状である[1-3]。その理由の一つとして、術中に蝸牛神経核表面への脳幹インプラント留置を正確に行うことが困難であることが推定されている。そこで我々は、蝸牛神経核を正確に探索するプローブを試作し、ナビゲーションシステムを利用して位置を正確にマーキングする方法を検討した。

2. 1 多チェンネル接触型マイクロ双極電極によるEABR測定

  64チャンネル接触型マイクロ双極刺激用電極(電極間距離 100μm; 栄行科学)を試作、electrically evoked auditory brainstem response (EABR)を指標とした、モルモット蝸牛神経核の電気生理学的マッピングを検討した。その結果、100μm のbipolar刺激により再現性良好なEABR波形が記録できること(図1)、ほとんどの例でEABR波形が記録できる刺激部位とできない刺激部位の境界は比較的明瞭に区別できることが明らかとなった(図2)。

図1. EABRの反応曲線

図2. EABR陽性エリアから推定される蝸牛神経核の位置

2. 2 ナビゲーションシステムを用いたマッピングシステムの試作

  次に、実臨床での本システムの応用を目指し、ナビゲーション対応型1ch接触型マイクロ双極刺激用電極(interval 200μm; 栄行科学)を作成、経迷路的聴神経腫瘍摘出術時に同電極を用いた術中EABR測定、並びにマッピングを検討した。刺激用電極をアクティブパッシングシステム(SureTrak2)に接続固定することで、プローブ先端をナビゲーション(Stealthstation; Medtronic)画像上で同定することができ、マッピングされたareaのナビゲーションシステム上での可視化ができることが確認された(図3)。

図3. ナビゲーション下、接触型マイクロ双極刺激用電極によるEABR測定の試み

3. 内耳へのDrug Delivery Systemに関する検討

  内耳性難聴に対する根本的な治療は確立されておらず、わずかに、急性感音難聴に対する、全身的、局所的(蝸牛窓を介したdiffusion)ステロイド投与の有効性が報告されているのみである。しかしながら、近年の研究により、実験的ではあるが、NGF(nerve growth factor)、BDNF(brain derived neurotrophic factor)、GDNF(glial cell derived neurotrophic factor)などのneurotrophinやBcl-2などのアポトーシスのinhibitorのほか、NOS(nitric oxide synthase)inhibitorやglutamateの拮抗薬などが内耳障害に対し防御的に働くことが明らかになるなど、あらたな薬剤治療法の臨床応用にも期待が高まっている[4,5]。また、最近では、遺伝子導入やRNA干渉による遺伝子サイレンシングを用いた遺伝性難聴治療の可能性も報告されてきている。
 これらの研究成果の臨床応用には、安全かつ有効な薬剤投与法の確立が不可欠である。蝸牛は側頭骨骨迷路の中に、他の組織から隔離された状態で存在するため、効果的な局所投与の方法が確立されれば、全身的な副作用回避の点においては、早期の臨床応用が期待される。

図4. 蝸牛窓(1)、内リンパ嚢(2)経由のDDS
ナノパーティクルを利用した、DDSや内耳イメージングの可能性

  本研究では、内耳疾患の診断、治療の基礎となる、内耳へのDDS(Drug delivery system)に関する検討を行う。また、この分野におけるナノテクノロジーの応用は始まったばかりであり[6,7]、ナノパーティクルを利用した、DDSや内耳イメージングの可能性を探る。

文 献

[1] Otto SR,ほか4名. J Neurosurg 96, 1063-71, 2002.
[2] Nevison B, ほか11名. Ear Hear 23, 170-183, 2002.
[3] Behr R, ほか8名. Skull Base 17, 91-108, 2007.
[4] Duan, ML, ほか6名. Hear Res 169, 169-178, 2002.
[5] Miller JM, ほか4名. Int J Devl Neuroscience 15, 631-643, 1997.
[6] Nakagawa T, and Ito J. Acta Oto-Laryngol Suppl 557, 30-35, 2007.
[7] Tamura T, ほか8名. Laryngoscope 115, 2000-2005, 2005.

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